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Picture a Scientist (Documentary Film); 女性科学者たちの長い闘い
International Women’s Dayにちなんで、所属機関がPicture a Scientistというドキュメンタリー映画のストリーミング上映会を開催した。女性科学者が苦難を乗り越えて科学研究に打ち込む姿を、彼女らへのインタビューをもとに記録した、説得力のある感動作である。上映会を周知するメールに”Please be advised that the film discusses themes of sexual harassment, so one should be mindful of this before viewing”とあったので、おそるおそるリンクを開いたら、冒頭から2分で涙が込み上げてきた。
このドキュメンタリーではDr. Nancy Hopkins, Ph.D. (molecular biology, MIT)、Dr. Raychelle Burks, Ph.D. (analytical chemistry, St. Edward’s University)、Dr. Jane Willenbring, Ph.D. (geology, the Scripps Institution of Oceanography)という3人の女性科学者の苦難が克明に描かれている。
Dr. Nancy Hopkinsは女性科学者の先駆けである。女性はfacultyとして採用されにくく、採用されても研究室の専有面積が男性の比較して小さいことなどをまとめた”A Study on the Status of Women Faculty in Science at MIT”を1999年に同僚らとともに発表し、MITにおける男女差を告発した。
Dr. Raychelle Burksは有色の女性科学者である。研究者の社会では特にマイノリティとして扱われ、男性は経験しなくてよいであろう批判にさらされてきた。彼女は疑問を投げかける。”Profeesional”な立ち振る舞いや服装とはなんだろうか?自分らしく振舞うことと、科学の探求はなぜ切り離されなくてはいけないのだろうか?
Dr. Jane Willenbringは修士課程の学生だった頃にボストン大学のDr. David Marchantの研究室で指導者から執拗ないじめにあう。南極における研究プロジェクトに参加するが、そこで待ち受けていたのは、トイレに行くたびに石を投げられ、坂から引きずり降ろされ、さらに言葉の暴力を受けるといった現実だった。苦難にもかかわらず科学者への道を諦めず、faculty positionをとった後の2016年、かつての指導者を告発し、Dr. David Marchantはボストン大学から退職させられる。
映画の冒頭はDr. Jane Willenbringへのインタビューから始まる。「幼い娘を研究室に連れて行ったとき、研究をする私を見て娘は自分も科学者になりたいと言った。涙が出た。娘が科学者に憧れるのは嬉しいことでもあったが、同時に、彼女からこれから誰かからゴミのように扱われることになるのかと思ったら泣けてしまった(意訳)。」
アメリカでは日本と比較して女性科学者が活躍する姿を目にする機会が多かったため見過ごしてきたが、科学者コミュニティにおける女性研究者の苦労は万国共通なのだと思った。不当なことをされたとき、何でもないことのように流すのが求められる振る舞いで、異を唱えるのは被害者側に非があると言われてしまうのはなぜなのだろう。
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The Hate U Give by Angie Thomas; ティーンエイジャーとBlack lives matter
16歳の主人公Starrは幼馴染Khalilが警官に射殺される現場に居合わせる。当初はその悲しみと自身や家族が脅かされることへの不安から、目撃者であることを隠すものの、Khalilや黒人に対する不当な評価に憤りを覚え、やがてBlack Lives Matter運動に身を投じる。
作者のAngie Thomasは2009年にカリフォルニア州で起きた黒人青年に対する白人警官による射殺事件に衝撃を受け、この小説を執筆した。2017年に出版されると、The New York Times誌によるYoung Adult best-seller listのトップにランクされなど大変な注目を浴び、2018年には映画化された。日本語版は「ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ」(服部理佳訳、岩崎書店)。
この小説が素晴らしいのは、Black Lives Matter運動の背景にある人々の怒りや悲しみを克明に描くだけでなく、一人の少女が黒人社会と白人社会の狭間でアイデンティティを確立させ成長する過程を瑞々しく表現したところである。自己と他者との関係性の再定義は、ティーンエイジャーが普遍的に経験する課題であり、この観点を加えることによって、読者は人種を超えて主人公に共感し寄り添うことが可能となる。
Audibleのナレーションも臨場感と説得力があり、すべての人物が見事に演じ分けられていた。Bahni Turpinはこのナレーションを評価され、Odyssey Award for Excellence in Audiobook Productionを受賞した。
冒頭は辛いシーンだが、ナレーションにぐいぐい引っ張られ、一気に最後まで視聴した。素晴らしい小説を届けてくれたAngie ThomasとBahni Turpinに感謝。
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書く瞑想/ジャーナリング@Veda Tokyo
ジャーナリング
マインドフルネスの手法の一つ、”ジャーナリング”について最近よく耳にする。心に浮かんだことを紙に書きだすことで、頭のモヤモヤに距離を置いて客観視できるようにする手法である。テーマを設けずに思いつくままに一定時間書く方法が最も一般的だが、好きなテーマを設定したり、5分日記(The Five Minute Journal)のような形式に沿って書くのも、自身の内面にアテンションを向ける、という意味でジャーナリングに含まれるのだろう。どのように皆さんが実践しているのか興味を持ったので、吉川めいさんが主催するヨガスタジオ、Veda Tokyoのジャーナリングのクラスに参加した。
Veda Tokyo
この投稿をInstagramで見る南青山にあったVeda Tokyoがオンラインスタジオにリニューアルしたため、海外からもアクセスできるようになった。Veda Tokyoのクラスのラインアップを見ると、ヨガやボクササイズといった身体面だけでなく、禅やジャーナリングなど心の調整の場も提供している点が特徴的。月会費が3000円のコースからあるので良心的だ(2021年3月現在)。
吉川めいさんのイントロダクションは日本語に時折英語が混じる点がユニークである。日英両言語で思考していることがその理由だと思うけれど、他の理由として、訳すことによってニュアンスが変わってしまう言葉はあえて英語のままにしているのだと思う。例えば、”practice”。日本語だと「修業」となり、歯を食いしばって頑張っている感が出る。ヨガは日々の生活の中で淡々と実践し続けるものなので”practice”という言葉の方がしっくりくる。
今回受講した「書く瞑想」クラスのテーマは「自分の中の不安や恐れ」。40分ほどのクラスの中で、このキーワードから連想されるものを思いつくがままに紙に書きだす。書き出したものを擬人化して、それと対面したり、肩を並べて語り合ってみたり、家に招くことを想像してみることによって、自分の中にあったモヤモヤに対する視座を多角化させるというアプローチをとっていた。限られた時間の中では深くまで踏み込むことはできなかったが、まずはジャーナリングを試すきっかけとして貴重な体験だった。
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The Body Book by Cameron Diaz;チャーリーズエンジェルの土台
Cameron Diazは笑顔が最高にチャーミングな女優だった。マスクに始まり、ベストフレンズウエディング、メリーに首ったけ、チャーリーズエンジェル、ホリデー、Annieに至るまでどの映画でも輝いていた。引退したとも報じられる彼女だが、最近はインスタグラムでPersonal growthについて情報を発信している。
そんな彼女が数年前、2冊の本を出版した。その一冊目がこの”Body Book”である。40代に差し掛かった彼女が自身の身体とどのように向き合ってきたかを告白している。ティーンエイジャーの頃は何を食べても細身だった身体が年齢を重ねて変化した過程や、チャーリーズエンジェルの撮影で武術のトレーナーに出会い身体を徹底的に鍛え直したエピソードなどが興味深い。また、ただの回想録ではなく、読者にも自身の身体と向き合うことを勧め、栄養、運動、休息について科学的に解説している。
Audible版では、前書きと後書きをCameronが朗読する。本文についてはCameronの声と親和性が高いナレーターを起用しているため、Cameron自身から話しかけられ、励まされているような気がする。折に触れて聞き返したい一冊。
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The Midnight Library by Matt Haig; 別の選択肢を選んだ人生を覗いてみたら
洋書はAudibleで読む(聴く)ことがほとんどだ。ゆっくり座って読書を楽しむ時間をとりづらいこともあるが、一番の理由は英語で長い本を最後まで読み切る体力がないことだ。上手なナレーターさんに読んでもらえれば、途中で息切れをしてもなんとか最後までたどり着ける。
人生のどこかのタイミングで異なる選択をしていたら、今頃どうなっていただろう?誰しもが考えたことがあると思う。The Midnight Libraryは人生に行き詰った主人公が、過去に異なる選択をした場合に生じ得た幾通りもの人生をお試しで経験するパラレルワールドものの小説だ。辛いことが重なってオーバードーズをした彼女は、生と死のはざまの間だけ滞在できる真夜中の図書館に入る。そこには、これまでに違う選択肢を選んだ場合の”人生”を描いた無数の本がある。ミステリアスな司書の案内に従ってそれらの本を開くと、異なるバージョンの”人生”に入り込むことができる。スターになったり冒険をすることになる選択もある一方で、些細と思った選択が他の誰かに大きな影響を与えることもあるということを彼女は次第に理解していく。
読後感が爽やかであった。小さなことの大切さを今一度確認する。ナレーションははっきりとした発音で聞き取りやすい。一つ一つのバージョンの”人生”が小話的になっているので、隙間時間を利用した視聴にも適していると思う。幅広い年齢層の人が楽しめる一冊である。
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旅;私達を待っている場所
”来年は今までのように実際の学会場に行きたい!”
隣のデスクのM君、来る学会に向けて口頭演題を事前録画していたのだが突如として叫んだ。彼らの領域ではInternational Mass Spectrometry Conference (IMSC)が何といっても目玉の学会で、毎年場所を変えて世界中で開催されるのだとか。”でも、数年前にフィレンツェで開催された時だけ、すごく忙しくて行けなかったのが今も悔やまれる”
そこから今は懐かしき国際学会にかこつけた旅行話で盛り上がった。そうだ、インド人もオランダ人も日本人もトルコ人も皆、国際学会のついで(?)の旅行を楽しみにしているのだ。
少し前にNYタイムズ誌が2021年に私達の帰りを待っている世界中の地域を読者から募った。取り上げられた52地域のうち、日本からは北海道の大雪山国立公園がエントリー。道産子としてちょっと嬉しい。他の地域は、ユタ州ブライスキャニオン国立公園やスコットランドハイランド地方のようなメジャーなところもあれば、初めて知るところも。いずれも絶景の写真とともに紹介されており、すっかり旅行とは縁遠くなった私には刺激的だった。
再び旅行が可能となったとき、訪ねたいのはどこですか?
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準備中